SAP FIモジュール完全ガイド:よく使うトランザクションコードと業務フロー徹底解説

はじめに

SAP FI(Financial Accounting)モジュールは、企業の財務会計業務を統合的に管理するSAPの中核モジュールです。総勘定元帳(GL)、売掛金(AR)、買掛金(AP)、固定資産(AA)、銀行会計など、財務部門が日々行うすべての業務をカバーしています。

FIモジュールの特徴は、リアルタイムでの財務データ統合にあります。SD(販売管理)やMM(購買・在庫管理)など他モジュールとのシームレスな連携により、受注・出荷・請求・入金・支払といった一連のビジネスプロセスが自動的に財務伝票として記録されます。

本記事では、FIモジュールの各サブコンポーネントごとに、現場で実際によく使われるトランザクションコード(TCode)とその業務内容、さらに実務上のポイントを体系的かつ詳しく解説します。


FIモジュールの全体構成

FIモジュールは以下のサブモジュールで構成されています。

  • GL:総勘定元帳(General Ledger)
  • AR:売掛金管理(Accounts Receivable)
  • AP:買掛金管理(Accounts Payable)
  • AA:固定資産管理(Asset Accounting)
  • BL:銀行会計(Bank Accounting)
  • TR:資金管理(Treasury)※FI-TRとして連携

各モジュールは独立して機能しながら、GLを中心にリアルタイムで統合されています。


1. 総勘定元帳(GL:General Ledger)

概要

総勘定元帳はFIモジュールの心臓部です。AR・AP・AAなど他のサブモジュール、さらにはSD・MMなど他モジュールからの仕訳がすべてGLに集約されます。SAP ECC以降では「新GL(New General Ledger)」が標準となり、並行元帳(Parallel Ledger)やセグメント別報告が可能になっています。

よく使うTCode一覧

TCode 機能名 業務内容
FB50 GL仕訳入力 手動で総勘定元帳への仕訳を入力する。費用計上・振替仕訳などに使用
FB03 伝票照会 入力済みの財務伝票の内容を参照・確認する。監査対応にも活用
FB08 伝票反転 誤った仕訳を反転処理(逆仕訳)で取り消す
FBL3N GL勘定明細照会 勘定科目ごとの取引明細を期間指定で一覧表示する
F-02 一般仕訳入力 複雑な仕訳パターンに対応する汎用的な仕訳入力画面
FS00 勘定科目マスタ管理 勘定科目の作成・変更・参照を行う。勘定グループや税コードも設定
FSP0 勘定科目(勘定科目表レベル) 勘定科目表レベルでの勘定科目マスタを管理する
FSS0 勘定科目(会社コードレベル) 会社コードレベルでの勘定科目の残高管理設定を行う
OB52 転記期間管理 会計期間のオープン・クローズを制御する。月次締め作業の要
FAGLB03 新GL残高照会 新GLの勘定残高を元帳・セグメント別にリアルタイムで確認する
FAGLBW03 新GL元帳残高照会 並行元帳ごとの残高を比較確認する
F.01 財務諸表表示 GLデータをもとに貸借対照表・損益計算書を画面表示する
GR55 レポートグループ実行 カスタム財務レポートを実行する
FBV0 仮伝票転記 承認前の仮伝票を作成し、後から正式転記する
F-65 仮伝票入力 将来の正式転記に向けて仮保存状態の伝票を作成する

業務フローと実務ポイント

月次クローズの標準フロー:

① OB52で当月の転記期間を確認・管理
② FB50 / F-02で月次調整仕訳を入力(未払費用・前払費用・引当金など)
③ FBL3N / FAGLB03で勘定残高・明細を検証
④ F.01で試算表を出力して差異確認
⑤ 問題がなければOB52で当月をクローズ

実務ポイント:

  • FB50は簡易入力画面、F-02は詳細設定が可能な上級者向け画面です。複数の利益センターや原価センターを跨ぐ仕訳はF-02が向いています。
  • OB52の管理は財務部門の重要な権限であり、誤った期間設定は全社の転記に影響するため慎重に操作します。
  • 新GLでは「文書分割(Document Splitting)」機能により、1つの伝票が自動的にセグメント・利益センター単位に分割されてGLへ転記されます。

2. 売掛金管理(AR:Accounts Receivable)

概要

ARは顧客との取引を財務面で管理するサブモジュールです。SDモジュールと密接に連携しており、VF01(請求書作成)やVF04(請求書一括作成)からの転記がARに自動反映されます。主な業務は顧客請求書の管理、入金消込、与信管理、回収レポートです。

よく使うTCode一覧

TCode 機能名 業務内容
FB70 顧客請求書入力 SD連携なしでFI単独の顧客請求書を手動入力する
FB75 顧客貸方票入力 返品・値引き・過請求時の貸方伝票を手動作成する
F-28 顧客入金処理 顧客からの入金を受領し、未収金(オープン項目)に消込む
F-32 顧客オープン項目消込 複数の未収・入金伝票を手動で相互消込する
F-30 顧客オープン項目転記 未収項目を別の勘定や会社コードへ振り替える
FBL5N 顧客明細照会 顧客ごとの未収・消込済・全明細を期間指定で確認する
FD01 / FD02 顧客マスタ作成・変更(FI) FI側の顧客支払条件・照合グループなどを設定する
XD01 / XD02 顧客マスタ作成・変更(全体) SD・FIを跨いだ全体的な顧客情報を管理する
FD10N 顧客残高照会 顧客ごとの月別・累計残高をサマリで確認する
FD32 顧客与信管理 顧客の与信限度額・与信グループを設定・更新する
F150 デュニングプログラム 支払期日を超過した顧客に督促状を自動送付する
VF04 請求予定一覧(SD連携) SDから転記待ちの請求対象を確認・一括請求処理する
S_ALR_87012178 顧客残高一覧レポート 全顧客の残高を一覧表示する標準レポート
S_ALR_87012197 顧客期日別残高 未収金を期日区分(30日・60日・90日超など)で分析する

業務フローと実務ポイント

AR標準フロー(SD連携ありの場合):

① SD:受注(VA01)→ 出荷(VL01N)→ 請求(VF01/VF04)
②(自動転記)AR:顧客請求書伝票がFBL5Nに反映(オープン項目として計上)
③ 入金確認後、F-28で入金消込処理
④ FBL5Nで消込結果・残高確認
⑤ 未回収があれば、F150でデュニング(督促)実行

実務ポイント:

  • F-28での消込時、入金額と請求額に差異がある場合(為替差損益・値引きなど)は差額を別勘定に振り分けます。
  • FD32での与信管理は営業部門と連携して行い、急激な売上増加時には与信限度額の見直しが必要です。
  • S_ALR_87012197(期日別残高分析)は経営報告でのDSO(Days Sales Outstanding)算出に活用されます。

3. 買掛金管理(AP:Accounts Payable)

概要

APは仕入先との取引を財務面で管理するサブモジュールです。MMモジュールと連携し、MIRO(請求書照合)を通じた3-way matching(発注・入荷・請求照合)が標準的なプロセスです。主な業務は仕入先請求書の登録・照合・承認・支払です。

よく使うTCode一覧

TCode 機能名 業務内容
FB60 仕入先請求書入力 MM連携なしでFI単独の仕入先請求書を手動入力する
FB65 仕入先貸方票入力 返品・過払い時の貸方伝票を手動作成する
MIRO 請求書照合(MM連携) MMの発注・入荷伝票と仕入先請求書を3-way matchingで照合する
MIR7 請求書仮保存 MIROの前段階として請求書内容を仮登録・保留する
MIR4 請求書照合伝票照会 登録済みのMIRO伝票を参照する
F-53 仕入先支払処理(手動) 個別の仕入先への支払いを手動で実行する
F110 自動支払プログラム 支払条件・期日に基づき仕入先への一括支払を自動実行する
FBL1N 仕入先明細照会 仕入先ごとの未払・支払済・全明細を期間指定で確認する
FK01 / FK02 仕入先マスタ作成・変更(FI) FI側の支払条件・照合グループ・銀行口座を管理する
XK01 / XK02 仕入先マスタ作成・変更(全体) MM・FIを跨いだ全体的な仕入先情報を管理する
FK10N 仕入先残高照会 仕入先ごとの月別・累計残高をサマリで確認する
FBZP 支払方法設定 自動支払プログラムの支払方法(振込・小切手等)を設定する
F-54 前払金消込 前払いとして計上した仮払金を請求書と消込む
S_ALR_87012085 仕入先残高一覧レポート 全仕入先の残高を一覧表示する標準レポート
S_ALR_87012078 仕入先期日別残高 未払金を期日区分で分析し、支払計画に活用する

業務フローと実務ポイント

AP標準フロー(MM連携ありの場合):

① MM:発注(ME21N)→ 入荷(MIGO)
② AP:MIRO(またはMIR7)で仕入先請求書を登録・照合(3-way matching)
③ 承認ワークフローを経て転記確定
④ F110(自動支払プログラム)を定期実行:パラメータ設定→提案リスト確認→支払実行
⑤ FBL1Nで支払結果・残高確認

F110(自動支払プログラム)の実行手順:

  1. 支払実行日・書類日付・会社コード・支払方法を設定 2.「提案」ボタンで支払対象リストを生成
  2. 例外リストで支払不可項目を確認・修正 4.「支払実行」で実際の支払処理を実施
  3. 振込ファイル(DME)を生成して銀行システムへ連携

実務ポイント:

  • MIROでのマッチング差異には許容範囲(Tolerance)が設定されており、小額差異は自動処理されます。
  • F110実行前には必ず提案リストを確認し、意図しない支払がないかチェックします。

4. 固定資産管理(AA:Asset Accounting)

概要

固定資産管理モジュールは、企業が保有する有形・無形固定資産のライフサイクル全体(取得→使用→減価償却→除却/売却)を管理します。GLと自動連携しており、資産取引はリアルタイムでGLに反映されます。

よく使うTCode一覧

TCode 機能名 業務内容
AS01 資産マスタ作成 新しい固定資産を台帳に登録する
AS02 資産マスタ変更 既存資産の属性(名称・取得日・償却方法等)を変更する
AS03 資産マスタ表示 資産マスタの内容を参照専用で表示する
AS91 既存資産の初期データ移行 システム移行時の資産帳簿価額を初期登録する
F-90 資産取得(外部購入) 仕入先請求書と連動して固定資産を取得計上する
F-91 資産取得(自社製造) 社内製造資産の取得を直接資産勘定に計上する
ABUMN 資産振替 資産を別の資産番号・資産クラス・会社コードへ振り替える
ABST2 資産残高照合 AA台帳とGL残高の整合性を確認する
AFAB 減価償却バッチ実行 月次・年次の減価償却計算を一括実行する
AFBP 減価償却転記リスト AFABの実行結果・転記リストを確認する
AW01N 資産エクスプローラー 資産ごとの取得・償却・帳簿価額推移を視覚的に確認できる強力なツール
ABAON 資産除却(売却) 資産売却時の除却処理と売却損益を自動計算する
ABAVN 資産廃棄 売却なしで廃棄する際の除却処理を行う
AR01 固定資産台帳 全資産の取得価額・累計償却・帳簿価額を一覧出力する
S_ALR_87011990 資産履歴シート 資産ごとの期中変動(取得・除却・償却)を詳細表示する
OAYZ 資産クラスの評価エリア設定 資産クラスごとの償却方法・耐用年数を設定する

業務フローと実務ポイント

固定資産のライフサイクルフロー:

① AS01で資産マスタ作成(資産クラス・償却方法・耐用年数を設定)
② F-90またはMIROで取得仕訳(資産勘定に計上)
③ 毎月末:AFABで減価償却バッチを実行 → GLへ自動転記
④ AW01Nで償却状況・帳簿価額を定期確認
⑤ 売却時:ABAON(売却除却)→ 売却損益を自動計算
⑥ 廃棄時:ABAVN(廃棄除却)→ 残存帳簿価額を除却損に計上

実務ポイント:

  • AFABは必ず「テスト実行」を行ってから本番実行します。
  • AW01N(資産エクスプローラー)は各期間の償却額・帳簿価額の推移をグラフィカルに確認でき、監査対応にも活用できます。
  • 並行元帳(IFRSと現地基準)を運用している場合、評価エリアごとに異なる償却方法・耐用年数を設定できます。

5. 銀行・資金管理(BL:Bank Accounting)

概要

銀行会計は、企業の銀行口座と社内システムを結びつけるサブモジュールです。電子バンキングとの連携により、銀行明細の自動取込・照合が可能です。

よく使うTCode一覧

TCode 機能名 業務内容
FI12 ハウスバンク設定 会社が利用する銀行口座(ハウスバンク)を設定する
FF67 銀行明細手動入力 銀行の入出金明細を手動でシステムに登録する
FF.5 電子明細自動取込 銀行から取得した電子明細(MT940等)を自動インポートする
FEBA 銀行明細再処理 自動消込できなかった明細を手動で消込・転記する
FEBP 銀行明細後処理 電子明細取込後の未消込明細を後から処理する
FF63 資金繰り計画入力 将来の入出金予測を登録し、資金繰り計画を管理する
FF70 資金繰り照会 資金繰り計画と実績を比較・確認する
F-58 小切手支払 小切手を使った手動支払処理を行う
FCHN 小切手管理 発行済み小切手の管理・照会を行う

実務ポイント:

  • FF.5(電子明細自動取込)を活用することで、銀行明細の手入力作業を大幅に削減できます。
  • FEBAでの手動消込では、入金明細に対して顧客番号や請求伝票番号を指定してAR側のオープン項目と連結消込できます。

6. 税務・消費税管理

TCode 機能名 業務内容
FTXP 税コードメンテナンス 税コード(消費税率など)を国・税コード別に設定する
S_ALR_87012357 税申告レポート 期間内の課税取引を集計し、消費税申告の基礎データを出力する
FB41 税仕訳入力 税調整仕訳を直接入力する
F.18 税照合 GLの税勘定と税レポートの整合性を確認する

7. 決算・期間クローズ関連

月次・年次クローズの主要TCode

TCode 機能名 業務内容
OB52 転記期間管理 会計期間のオープン・クローズ。月次締め作業の要
F.16 GL残高繰越 貸借対照表勘定の残高を新年度へ繰り越す
F.17 AR残高繰越 売掛金残高を新年度へ繰り越す
F.18 AP残高繰越 買掛金残高を新年度へ繰り越す
AJRW 資産年度繰越 固定資産台帳の残高を新年度へ繰り越す
F.07 顧客・仕入先残高確認 AR・AP勘定とGL補助元帳の整合性を確認する
F-03 GL勘定消込 仮勘定・クリアリング勘定のオープン項目を消込む

月次クローズチェックリスト(実務参考)

【1週目】

  • MIRO:未処理の仕入先請求書を全件登録
  • F-28:入金消込の実施
  • FBL5N / FBL1N:未消込残高の確認・対応

【月末前】

  • FB50:未払費用・前払費用・引当金の調整仕訳入力
  • AFAB:減価償却バッチのテスト実行→本番実行
  • F110:自動支払プログラムの最終実行

【月末】

  • F.01:試算表の出力と経営層への報告
  • OB52:当月の転記期間クローズ
  • FAGLB03:GL残高の最終確認

【年次クローズ追加作業】

  • F.16 / F.17 / F.18:各元帳の残高繰越
  • AJRW:資産年度繰越
  • OB52:新年度の転記期間オープン

8. 標準レポート(ALRレポート)まとめ

TCode レポート名 内容
S_ALR_87012284 財務諸表 貸借対照表・損益計算書を期間比較で出力
S_ALR_87012301 勘定別残高一覧 全勘定科目の期間残高をサマリ表示
S_ALR_87012082 仕入先残高一覧 全仕入先の残高一覧
S_ALR_87012085 仕入先期日別残高 未払金を期日区分で分析
S_ALR_87012172 顧客残高一覧 全顧客の残高一覧
S_ALR_87012178 顧客期日別残高 未収金を期日区分で分析(DSO分析)
S_ALR_87011990 固定資産履歴シート 資産の期中変動を詳細表示
S_ALR_87012357 税務レポート 消費税申告用の課税取引集計

9. FIと他モジュールの連携ポイント

FI ↔ MM(購買・在庫管理)連携

  • 入荷(MIGO)→ 自動的に在庫計上仕訳がGLへ転記
  • MIRO(請求書照合)→ 買掛金伝票がAPへ自動転記
  • 3-way matchingで発注・入荷・請求の数量・金額を照合

FI ↔ SD(販売管理)連携

  • 請求書作成(VF01)→ 売掛金伝票がARへ自動転記
  • 収益認識設定により、売上計上タイミングを管理
  • 与信管理(FD32)とSD受注管理が連動

FI ↔ CO(管理会計)連携

  • FI転記と同時にCO(原価センター・利益センター・WBS等)にもデータが連携
  • FI-CO統合(新GL)により、財務会計と管理会計のリコンサイルが不要に
  • 利益センター別・セグメント別P&Lが新GLで直接生成可能

まとめ

SAP FIモジュールは広大な機能を持っていますが、日常業務で頻繁に使うTCodeは意外と限られています。以下の3つの軸を押さえることが習熟への近道です。

①入力系TCodeの確実な習得 FB50・FB60・FB70などの仕訳入力と、MIRO・F110などの重要処理を正確に使いこなせることが基本です。

②照会系TCodeを活用したデータ品質管理 FBL1N・FBL3N・FBL5NとAW01Nは、財務データの正確性を担保するための必須ツールです。月次で必ず確認する習慣をつけましょう。

③月次・年次クローズフローの体系的な理解 OB52による期間管理を軸に、調整仕訳→償却実行→残高確認→レポート出力→期間クローズという一連の流れを体で覚えることが、財務担当者としての実力に直結します。

FIモジュールはMM・SD・COなど他モジュールとの連携が非常に多く、「なぜこの仕訳が自動起票されるのか」という仕組みへの理解を深めることが、SAPプロフェッショナルとしての成長につながります。本記事を足がかりに、各業務プロセスの理解をさらに深めていただければ幸いです。